池尻雑記:山手通り✖️山手通り
土地に馴染むというのは、その街のちょっとした“裏道の呼吸”を身体が覚えることなのだと思う。
たとえば長年住んだ渋谷、ヒカリエから明治通りを原宿方面に抜けたい時に、私はまずヒカリエの3階から宮益坂に抜け、そこから茶亭羽富の前を通って明治通りに入る。
人混みをずいぶんと避けられるし、宮益坂を横断するための信号はこまめに切り替わるので、とてもスムーズに行き来ができる。
池尻には引っ越してまだ半年弱。まだ渋谷ほどに裏道に精通している訳じゃない。ただ、自転車で代々木上原方面から池尻へ帰るときだけは、旧山手ではなく新山手を使う。
神泉の交差点までは信号が多いし人通りもそれなりにある一方で、新山手はそこまで混まないし信号が少ない。何よりより坂を一気に下れて、その疾走感がたまらない。(行きはその分登りがきついのでおすすめしない。)
旧山手と新山手の関係は長いあいだ私にとって謎だった。松見坂に住んでいた頃は新山手こそ“山手通り”だったし、東大裏にいた頃は旧山手を使うことが多かった。
そしてタクシーで「山手通りを渋谷方面はお願いします」なんて自宅までの道を軽く説明するたびに「旧ですか? 新ですか?」と聞かれては、あれ、どっちがどっちだっけと混乱した。そんな“ふたつの山手”が、ようやく最近になって私の中で腑に落ちた。池尻←→渋谷間は旧山手から、新山手から、それぞれ行く方法があって、時間帯✖️移動手段✖️発着地点によって、どっちを使うかをよく考える。
つい先日、渋谷から池尻方面へ、新山手を下り切った先の横断歩道で、「山手通り × 山手通り」という標識を見かけ、思わず笑ってしまった。
こんな表記、混乱するに決まっている。ただ新山手も旧山手も今となっては行き慣れた身。まあそう書くしかないよね、という標識にみえる。
そしてザ•裏道を抜けて家に帰る途中、ああ、この街にも結構馴染んだな、とちょっと誇らしい気分になったのだった。