別れの予感
18歳からずっと東京にいて、好きだったお店との別れは何度も経験してきた。
閉店を知って最後に訪れた店もあれば、ずっとあると思っていたのに突然なくなってしまった店もある。
今日、大好きな友達と訪れたラブランシュは、そのどちらとも少し違う。予約をしようと電話をしたら、営業日数が以前からぐっと減っていた。そして今日、久しぶりに訪れたらオードブルの種類も絞られ、メインの数も減っていた。シェフは今年76歳になる。店員さんの数も少ない。それで「もしかしたら今日が最後になるのかもしれないな」
そう思った。
ラブランシュを知ったきっかけは少し面白い。
30代の頃に知り合った男性に、料理を研究するのが趣味の人がいた。岐阜から深夜バスで2ヶ月に1回上京しては東京の名店を食べ歩いていて、私は時々その会に呼ばれたのだけど、その彼が「東京でいちばん食べるべき店」と言っていたのがラブランシュだった。
初めて訪れたのは、たしか今の夫と一緒だった。
そのとき食べた、いわしとじゃがいものテリーヌの美味しさはいまでも忘れられない。こんなに美味しいものが世の中にあるのか、と本気で驚いた。
それから何度も通ったけれど、結局いつも同じものを頼んでしまう。そして今日はメニューを選ぶ余地はなかったのだけど、また、いわしとじゃがいものテリーヌを食べた。
変わらず素晴らしく美味しかった。
けれど料理が出てくる間合いや店の空気のどこかに、これまでとは少し違うものを感じた。一口ごとに美味しいと思いながら、同時に「もう食べられなくなるかもしれない」という気持ちも強くなっていった。
最後のコーヒーと受け菓子をいただきながら、これが最後かもしれないな、と思った。
もちろんまた食べたい。できるなら夏にも来たい。
でも、もし今日が最後だったとしても、それは仕方のないことなのかもしれない。
初めて来た頃は、本格的なフレンチのお店に入るだけで緊張していた。それが今では一人でも思い立ったら行くほどに、私もずいぶんと歳を重ねた。
40代最後の年を迎えて、これから先、こういう別れはきっと増えていくのだろう。
願わくば、もう一度夏に。
ただもし叶わなかったとしても、ラブランシュのことはずっと、忘れない。