「2本のサクソフォンとピアノによるトリオコンサート」/いつか音楽の世界にも。
先日、ピアニストの友人、鳥居大輔が出演するピアノトリオコンサートに行ってきた。

ピアノトリオ、といえばクラシックの世界ではピアノ・ヴァイオリン・チェロ、が主流。ところが送られてきた案内には「2本のサクソフォンとピアノによるトリオコンサート」とあった。曲目も「サクソフォン」とは正直縁のなさそうなクラシックの名曲ばかりが並んでいた。いったい何故こんな曲を、ピアノとサクソフォンで、というのがフライヤーをみた時の印象だった。
当日会場でプログラムをみて、更に驚いた。

一曲目はベートーヴェンの「ヴィオラとチェロのための二重奏曲」で、題名にもあるとおり、ヴィオラとチェロのための曲だ。ヴィオラもチェロも弦楽器で、その特徴を生かした曲というのは、切れ目のない滑らかな旋律がウリとなる。ところがサクソフォン、つまりサックスは木管楽器で、息を使って音を出す。切れ目のない滑らかな旋律を紡ぐ、を実現するにはブレスなしに吹き続けるしかなくて、プログラムをみただけで、なんだか私は、息苦しくなった。
象徴的だったのがバッハの「主よ人の望みの喜びよ」。あの曲の旋律をサックスで吹ききる、というのがどんなに変態的なことなのか、木管楽器や金管楽器を嗜んだことがある人なら分かるだろう。苦しそうなところは何箇所かあった。ただ、それが大して気にならないほど、二人はサックスでバッハを、それは見事にやりきった。
プログラムの中盤で、何故このコンサートをやるにいたったか、の説明が友人からあった。
ショパンのピアノ三重奏曲と小曲をやってみたい、という相談が小野寺陸さんから私の友人にあった。そしてどうせやるからには、ちゃんとしよう、きちんとしたホールを借りて、となり、このように「コンサート」という形でお披露目するにいたった。
その話の中に出た「時給10数円のこの音楽の世界でやっていく覚悟」という言葉に胸が詰まった。チケットの値段は2,500円。会場は満員だったけれど小さいホールだったから100人もいない。会場費や備品のレンタル諸々をひくと一人数万円の取り前にはなる。ただそれに対し、このコンサートで弾いた8曲の曲を完成させるにかかった時間はどれほどだろう。「ヴィオラとチェロのための二重奏曲」1曲にしても、あれをサックスで見事に再現するにいたるまでの道のりは、数時間では、決してない。
実はこのコンサートの前に、前職の繋がりで株式会社ストロボライトの川上睦生さんにインタビューさせていただいた。株式会社ストロボライトは、ITの力で植物に関わる業界を変えようとしている。彼の言葉で強く印象に残ってるものがいくつかあって、そのうちのひとつが「真剣に植物に関わる人が、対価に見合った報酬を受け取るような世界にしたい」だった。
「植木の剪定(せんてい)ひとつとっても「切る」だけだったら誰でもできること。ただその道何十年の職人だから分かること、知っていること、できることがあって、その価値をちゃんと伝えていきたいし、ユーザーへも植物に興味を持ってもらい学んでもらいたい」
そのまっすぐな思いに、胸が熱くなった。
今の日本のクラシック音楽の世界は、儲からない業界だ。需要がない、といえばそれまでなのかもしれない。ただそれでも1曲に何十時間もかけて会得して、音楽を届けたい人達がいる。
植物に携わる人がまっとうに稼げるようにという思いで、川上さんは日々奮闘されている。
いつかクラシック音楽の世界にも、そんな人が現れるといい。そして私はささやかながら、こうしてよかった、と感じたものを、何故よかったのか、どうよかったのか、きちんと言葉に残していきたい、そう思う。